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2009年9月 4日発行:累進税率

【キーワード解説】 〜exBuzzwordsキーワード解説より〜

累進税率(累進課税方式)とは、税額の算出にあたり、課税標準等が大きくなるほど税率が高くなる方式。累進税率のうち、課税標準等の額のレンジごとに税率が定められている方式を「超過累進税率」と呼ぶ。超過累進税率の例としては、所得税、相続税、贈与税などがある。

(超過累進税率の例〜所得税の税率 2009年度)
195万円以下 5%
195万円超〜330万円以下 10%
330万円超〜695万円以下 20%
695万円超〜900万円以下 23%
900万円超〜1,800万円以下 33%
1,800万円超 40%

 

上記の例で例えば課税所得が500万円の場合の所得税額は、以下のように算出される
195万円×5%+(330万円−195万円)×10%+(500万円-330万円)×20%=572,500円

 

【昨今の状況】

民主党が大勝した先日の衆議院選挙においては、いわゆる各党が掲げたマニフェスト、その中でも民主党のマニフェストが、いい意味でも悪い意味でも注目を浴びたことは記憶に新しいところです。今後は民主党がこれをどのように、どこまで実現していくのかという部分に国民の関心が移っていくことと思われます。その中でも実現に当たっての財源をどう確保するのかという部分は、多くの国民にとって関心事が高い部分ではないでしょうか。特に財源を確保するために「歳入を増やす」、すなわち「税収をどう増やすのか」という部分は我々国民にとって生活に直結するだけに特に気になるところです。

 

これに関して民主党は、マニフェストの中で「税制」という項目を設けて「「簡素・公平・透明」を原則としながら、税体系における所得・消費・資産等のバランスのあり方と、税と社会保険料の役割分担について見直す。」という基本方針を掲げて、各論として詳細な政策案を列記しています。

 

我々の個人の生活に直結する税といえば「所得税」と「消費税」が代表的な税目だと思いますが、このうち後者の消費税については現行の税率を維持することを前提とし、税率の変更については具体的な時期や数値には言及せず、どちらかというと玉虫色の内容になっています。一方、所得税については、「相対的に高所得者に有利な所得控除を整理し、税額控除、手当、給付付き税額控除への切り替えを行い、下への格差拡大を食い止めます。」として高所得者に対する増税を示唆しています。この背景としては、現行の所得控除が高所得者に有利で、中・低所得者に不利な制度であるとの認識があるようです。以下、続きを抜粋します。

 

「・・・所得控除は、結果として高所得者に有利な制度となっています。例えば、扶養控除(一般)は子育て支援の機能を有していますが、同じ38万円の所得控除を適用した場合、高所得者が10万円を超える減税になるのに対して、低所得者では2万円の減税にもなりません。・・・」

 

しかしながら、このロジックは単に減税の絶対額の比較をしているに過ぎず、やや強引な観が否めません。上記のロジックを、減税額ではなく減税割合で比較した場合、結論は全く反対になります。たとえば、扶養控除38万円を適用した場合の減税割合を課税所得が250万円の場合、500万円の場合、1000万円の場合それぞれで比較した場合、下記のような結果になります。

 

・扶養控除前の課税所得が250万円の所得税額 195万円×5%+(250万円−195万円)×10% = 15.25万円 扶養控除による減税額 38万円×10% = 3.8万円 → 減税割合 3.8÷15.25 = 約25%
・扶養控除前の課税所得が500万円の所得税額 195万円×5%+(330万円−195万円)×10%+(500万円-330万円)×20%=57.25万円 扶養控除による減税額 38万円×20% = 7.6万円 → 減税割合 7.6÷57.25 = 約13%
・扶養控除前の課税所得が1000万円の所得税額 195万円×5%+(330万円−195万円)×10%+(695万円-330万円)×20%+(900万円-695万円)×23%+(1000万円-900万円)×33%=176.4万円 扶養控除による減税額 38万円×33% = 12.54万円 → 減税割合 12.54÷176.4 = 約7%

 

つまり、減税割合で見ると、250万円の場合25%の減税効果があるのに対し、500万円の場合は13%、1000万円の場合は7%と、所得が大きくなればなるほど減税のメリットは小さくなるという全く反対の結論になるのです。これは、日本の所得税制が累進課税を採用しているためであり、上記の数式をみれば明らかなように、所得の多寡に関係なく一定額を差し引く所得控除は、額で比べれば高所得者に有利に、率で比べれば低所得者に有利に働く結果が導かれるわけです。従って、現行の所得控除が「結果として高所得者に有利な制度」というのは誤解を招く表現といえます。

 

税の公平性という観点からは、累進税率はそもそも不公平な制度といえますが、多くの民主主義国家でこれが採用されているのは、富(所得)の再配分という税の別の機能が重視されている結果ともいえます。格差問題がさらにクローズアップされてくれば、税の公平性よりも所得の再配分という機能が重視される傾向になっていくことが想定されます。現に米国においてはオバマ大統領が富裕層増税の方針を打ち出していますし、英国でもそのような流れになっています。そして、高所得者の割合は全体から見れば低いため、高所得者への課税強化は、政治的に支持を得やすいという背景もあり、日本においても、現状の政治情勢のもとでは、所得控除見直しに止まらず、累進税率の強化という流れになっていくことは十分に想定されます。

 

もっとも、累進税率の強化を含む高所得者への課税強化は、税収の増大という正の効果を生み出すとは限らず、一方では経済の非活性化という負の効果を生み出す可能性もあります。税制の議論は、財政の健全化、経済の活性化、ひいては将来の国家のあり方にもつながってくるものであり、冷静な議論が望まれるところです。

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